スタッフT

先日母から写真が送られてきました。

「誕生日に向けて編んでいるマフラーがもうすぐ完成するよ」とのLINE。

憧れはあるのですが、私には編み物の才能が全くなくて、出来もしないのに、作品や写真が素敵で眺める為だけに買っていた編み物の本が本棚に並んでいました。
その本に載っていたマフラーを、私の誕生日の為に母が編んでくれていたのです。
この歳になっても、離れた場所に住む親から誕生日に何かを作ってプレゼントして貰うと言う事が、少しくすぐったくも、とても嬉しく思ったのです。

編み物と言えば、冬になると我が家に登場するかぎ針編みで編んだブランケットがあります。
ソファーに掛けたり車に持ち込んだり。
モチーフ編みを繋げただけのただただ初心者の作品ですが、私にとっては思い出深いもの。
と言うのも、もう10年以上前の話ですが、結婚を機に和歌山へお嫁にやってきた当時。夫と夫の家族しか知っている人はおらず、友達もいない、土地勘もない。その上車の運転にあまり自信がなかった私は、たった1人どこへ行く事もなく、家で最低限の家事をしたり、ちょっとスーパーへ買い物するくらいで日々を過ごしていました。
気になるパン屋さんや行ってみたいお店を見つけても、和歌山は車が重要な交通手段なので、私のおぼつかない運転で、知らない道を1人で走る勇気がなく(その当時はちょっと古めのナビもない車でした…)たいてい家に引きこもっていました。
そんな時に、図書館で借りてきた”初心者でも出来るモチーフ編み”と言った類の本。
そこには色とりどりの毛糸でモチーフが繋げられたクッションカバーやコースターなどが載っていました。
時間を持て余した今の自分にぴったり!と早速、かぎ針と数種類の毛糸を買ってきて挑戦したのです。
編み物の図案は、元素記号のような謎の記号が並んでいて、それを見ながら編み進めるのですが、数学や化学が大の苦手だった私にとって、それを解読するのに一苦労。
編み方の写真を頼りに、指に毛糸を絡ませて、何度も糸を解いてはまた編み直す事を繰り返しました。
最初はモチーフを数個繋げて小さなマットを作る予定でした。
でも完成したのは結構大きなブランケット…!どうやら、引きこもりの日々は結構長かった様です。

今でも冬になりそのブランケットを出す度、あの頃の自分が思い出されます。
今ではすっかり和歌山人!土地も人も温かくて優しくて、自然にも恵まれていて大好きな場所になりました。
あの頃よりは車の運転も上達し、気になる場所にも1人でスイスイと運転する事が出来ます。
月日が流れて家族が増え、いつの間にかがむしゃらに日々をこなす毎日になりましたが、母から貰った手編みのマフラーを巻いて寒い外を歩きながら、ふと10数年前の自分を思い出し、
「ファイト〜!」
と、ひっそりとエールを送るのでした。