スタッフS

「もし、ねこちゃんが来たらね、」
5歳の娘が時々口にする言葉です。

娘は物心がつく頃からずっと猫が大好き。
猫の出てくる番組をずっと繰り返し観たり、図書館では猫の登場する絵本を探してきます。
幼稚園でお絵描きする絵も猫ばかりで、担任の先生にも猫好きの子として認識されています。

 

私はこどもの頃、犬が飼いたくてたまりませんでした。
外で犬を見かけると寄っていき、触ろうとして吠えられたりもしましたが、犬への愛は変わらず。
しかし、昔飼い犬を亡くした経験からもう悲しい思いはしたくないという祖母の反対もあり、犬を飼うという夢は叶いませんでした。
ところが私が高校生のとき、急に父がハスキー犬の子犬を連れて帰ってきたのです。
グレーの毛並みの小さな子犬はふわふわで愛らしく、私は夢中になりました。
あちこちへの散歩はもちろん、犬小屋に一緒に入って遊んだりも。

夏の夜、すぐ横を電車が通る道を散歩した日々。
電車の窓から漏れる光に照らされたきらきらした犬の目。
薄い黄色の待宵草や赤いおしろい花の匂いを嗅ぐ犬の鼻。
寒い冬の日の散歩では、しっかりと防寒着を着込みマフラーをぐるぐる巻きにした私の横を、冬仕様のふかふかの毛皮で颯爽と歩く犬。
いつもは穏やかな犬ですが、キツネのように太いしっぽを触るとちょっと怒った表情に。
でもそのあとすぐに、私の手をぺろぺろと舐めてフォローしてくれたり。
家族と口げんかして、いらつきながら散歩に連れ出したとき、落ち込んでいる私のそばでじっとくっついてくれていた犬。
少しハリのある毛並みを撫でて、心を落ち着かせてもらったこと。
私が毎朝家を出るときにはか細い声で寂しそうに鳴き、帰宅すると飛び跳ねてお出迎えしてくれた。

残念ながらその犬は今はもういません。
あの子が亡くなった日のことは鮮明に覚えています。
外出先でそれを知らせる電話を受け、家へ帰る途中の駅のホームでも涙が止まらず、後にも先にもあんなに泣いたことはありません。

 

「もうちょっと大きくなって、自分で猫のお世話ができるようになったらね」
初めて娘に「猫が飼いたい」と言われたとき、私はこう答えました。
その頃の娘は3歳。オムツも取れておらず、まだまだ手がかかる時期でした。
その上、動物のお世話もするとなると大変だと思ったのと、娘が生き物との適度な距離感がつかめるまで成長してからのほうがいいのでは、と考えたからです。
そして、まだ動物と暮らすことの覚悟を決められないでいたのです。
命を預かること、いつか必ず来るお別れのとき、最期を看取ること。

「もうちょっと大きくなったらねこちゃんが飼える」と信じている娘。
そんな娘の願いを叶えてあげたい気持ちも大きい。
そして私も、娘と一緒に猫の映像を観たり、猫のことを知っていくうちに、だんだん、もし猫と暮らすことになったら、という思いを巡らせてしまうように。
猫グッズの特集を読んでは、爪とぎや猫ベッドの素敵なものをチェックしたり、このドアは開けっ放しにしたら危ないかな、トイレはどこに置こうかな?など、わが家で猫がどう暮らすかという想像も。

 

私の犬とともに過ごした思い出は、今もかけがえのないものになっています。
そしてもう一度、柔らかくて温かな重みを感じてみたいと思い始めました。
そこでいつか、保護猫との出会いを探してみようかと考えています。
わが家の大切な家族として、娘の大事な友達として、一緒に暮らせる日が遠くないような気がしています。